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プロデューサーとの和解(2)

「おはよう、伊織」
「おはよう。」

山本の目をまっすぐ見て挨拶をする。今日は問いつめる気で来たのだ。気力で負けてはいられない。

「そんな、怖い目で見るなよ。話をしに来たんだろう?」
「なれ合う気はないわ。きちんと納得のいく説明をしてもらわないと、今日来た甲斐がないし」
「とりあえず、レッスン室へ行こう。話はそれからだ」

一瞬怪訝に思ったが、防音もしっかりしているし、立ち聞きを警戒してのことかと納得した。

スタジオにはいると、山本はまっすぐピアノに向かい、ピアノを弾く準備を始める。

「ちょっと。何してるわけ?」
「まあ、ちょっと待て」

その様子を見ていると、伊織はだんだんイライラしてきた。
今の山本には話す気がない様に見える。

やっとごそごそするのをやめたかと思うと、山本がこっちを向いてのんきに言った。

「さあ、声出し行ってみようか」
「はぁ!?」

伊織は思わず切れる。

「なにいってんの!?私は話をしに来たのよ!アンタとのレッスンなんて予定にないわ!」
「いいから。まずはこのピアノについてきてごらん」

山本は、複雑なアルペジオを奏でる。
伊織は呆れて声が出ない。

まもなく山本は手を止めて、伊織に向かって言う。

「ん?声が出てないぞ。伊織にはちょっと難しかったかな?」

その言葉にかちんと来る。

「なにいってんの!余裕でついて行けるわよ!もっかい弾いてみなさいよ!」
「よし、もっかい行くぞ」

伊織はその音について行こうとしたが、いくつか音をはずしてしまった。

「あれ、やっぱりムリか?」
「ちゃ、ちゃんと発声練習してないからよ!発声やったらこれくらい余裕だわ!」

伊織は当初の予定を忘れて、レッスンに没頭し始めていた。

そんなやりとりを続けるうちに、ノドが温まってきて、かなり思い通りに声が出せるようになる。
さっきのアルペジオにも余裕でついて行ける。

それを確認した山本が言う。

「よし、じゃあ、『Here We Go!』を通しで歌ってみようか。伴奏行くよ」

『Here We Go!』は、伊織がとばしたヒット曲の中でも、伊織の一番のお気に入りだった。
この曲ならアカペラでも自信がある。

気持ちよく主旋を歌っていると、サビのところで突然後ろから声が被さってきた。
後ろを振り向くと、真とあずさだった。

驚いたものの、しかし、あまりに見事にハモるので、声を出すのがやめられない。
だんだんと、伊織の意識が音の間を漂い始めた。自分が歌と融けて合わさっていく。

『気持ちいい…』

突然鳴り響く拍手で我に返る。
周りを見ると、いつの間に集まったのか、ドアの間から他のアイドル候補生や事務員などがのぞいており、みな一様に感極まったかのように拍手をしている。

「あ…」
「わかったかい、伊織」

山本が唐突に言う。怪訝に思い、思わず、山本の顔をじっと見てしまう。

「これが、俺が伊織を誘った理由だ。俺は伊織の才能が欲しかったんだよ」
「…」

その言葉を聞いて、今日山本と話をしに来た理由を思い出した。
伊織はすでに、山本に会いに来た理由などどうでも良くなっていたのだ。
すとんと山本の言葉が胸に落ちてくるのを感じると同時に、そのあまりのストレートな言葉に思わず赤面してしまった。

「…」
「伊織?顔が…」
「う、うるさいわねっ!ちょっとのぼせただけよ!顔洗って来るっ!」

小走りにスタジオを出て、お手洗いに向かいながら、伊織は嬉しいんだか悔しいんだか、いろんな感情がごちゃ混ぜになって、それでも。
とにかく叫びたいくらいの高揚感を感じていた。


| Copyright 2006,03,01, Wednesday 02:05am 瀧義郎 | comments (0) | trackback (0) |

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