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プロデューサーとの和解(1)

どうやって帰ってきたのか覚えていないが、気がついたら自分の家のベッドの上だった。
相変わらず体の中に変な感覚や頭痛が残っていたが、それでも何とか思考する力は取り戻していた。

「えっと…」

昨日のことを思い出してみると、いろんな負の感情が渦巻いて押し寄せてくる。
やはり混乱は押さえられず、今日はどうしても事務所に行く気になれなかった。

『また、あずさにお願いしてお休みさせてもらおう…』

非常に後ろ向きで、自分らしくないと客観的には思いつつも、体が重くてどうしても動けなかった。

「もしもし、あの、あずさ?」
「あ、伊織ちゃん?どうしたの〜」
「今日のことだけど…」
「お休みするの?」
「うん。いいかしら」
「え〜と、あ、プロデューサー…」

何を思うまもなく、電話の相手が山本に代わった

「伊織か?すまん。昨日のことを聞いた。こんな事になるなら、ちゃんと話すべきだった」

山本は一方的にまくし立てる。

「ショックを受けているのはわかる。けど、それでも今日は出てきて欲しい。俺のミスであることは認めるから、頼む。出てきてくれ」
「…」

その言葉を聞いて、少し伊織は揺れたが、唐突に半分忘れていた、山本への怒りを思い出した。

『なによ。今更…!』

怒りのままに山本に言葉をぶつける。

「飽きられたアイドルには過ぎた申し出だと思いますわ。プロデューサー」
「…?突然、何のことだ?」
「わからなければ言ってあげるわ。私はアンタと社長が話してたことを聞いたのよ!」
「…え?」

プロデューサーは、まだわからないようだった。
間の抜けた返事を聞いて、怒りが加速する。

「結局、私は飽きられたアイドルのリサイクルとして、今回のユニットに選ばれたんでしょう!?そう社長が言っているのを聞いたわ!」

伊織はあの日のことを思い出しながら、山本にまくし立てる。
山本は黙って聞いていたが、唐突に言葉を発した。

「伊織、ちょっと聞いてくれ」
「今更何を言い訳するつもりッ!?」
「いいから聞け!」

思わず伊織は黙ってしまう。

「どう説明したらわかってもらえるかはわからないが、俺はそんなつもりではお前をユニットに組み入れていない。
社長の意図は、そういうところにあったのかもしれない。しかし、それは俺の意図とは関係ない。
俺は、お前の声が今回の企画に必要だと思った。だから誘ったんだ。テコ入れとか、それは事務所で売り出すときの都合に過ぎないんだ。
俺もそちら側の人間であるから、疑われてもしょうがない部分はあるが、それでも、違う。俺はお前の声が欲しいんだ」

山本は率直な言葉で、伊織に語りかける。伊織は返事が出来ず、黙ってしまった。
山本が言っていることは理解出来るが、一度裏切られた以上、信じていいものかどうか、非常に迷う。

「とにかく、今日は出てきてくれ。そのことも含めて、きちんと話そう。な?」

伊織は数刻逡巡したが、結局承諾した。

「そうか!ありがとう、伊織!じゃあ、事務所で待ってるよ!」

電話を切って、ため息をつく。
単に乗せられてしまっただけの気もしないではないが、それでも真意を問いつめる機会を得るというのは悪くないと思えた。

パンと手を叩いて気合いを入れてから、執事室へ内線をかける。

「新堂さん、事務所に行くから、車の用意をお願い!」


| Copyright 2006,02,27, Monday 02:05am 瀧義郎 | comments (0) | trackback (0) |

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