THE iDOLM@STER 長編::伊織の再出発
ファースト・ライブ(3)
約束通りの時間に全員が事務所前に集まり、プロデューサーの運転する車に乗り込んだ。
よくわからない道を抜けて10分ほど過ぎた頃、大きめの箱形トラックが一台だけ駐車してある駐車場に着いた。
単なる貨物トラックのような外観で、飾りっ気は全くないが、側面にはゴシックの文字で「765 Production」とだけ書いてある。
後部のドアを開けると、中にはすでにバックバンドの面々が乗り込んでいた。
挨拶をして、席に座るとプロデューサーが説明を始めた。
「このトラックで、渋谷109の前まで移動し、側面を開けて一曲分だけゲリラライブを行う」
「一曲だけ?」
「そうだ。一曲歌い切れれば十分だ。歌いきれるかどうかもわからん」
「それって、ひょっとして、警察の許可は取ってない…とか?」
真がおずおずと問う。
「一応知り合いを通じて、連絡はしてあるけれど…ま、皆まで言わせるなということだな。ひょっとしたら、任意の事情聴取くらいは受ける可能性がある。なので、正直無理に…とは言えないが…」
3人は顔を見合わせ、視線を交わした後、山本に向き直って全員がやると答えた。
「ありがとう、みんな。すまん。こんな無理な形のファーストライブになってしまったことは、俺の責任だ。申し訳ないと…」
言いかけたことばを伊織が遮る。
「そんなゴタクはどうでもいいのよ。私たちはライブを成功させに来てるの。
アンタに謝ってもらうのは、失敗したときだけでいいし、そしてそんなことは起きないから、謝ってもらう必要なんてないわ」
「…そうだな。じゃあ、ライブ前後の手はずを説明する」
山本は手際よく、ライブ前の準備、ライブが始まったときの段取り、終了後の逃走経路などの説明をする。
「…以上だ。わかったか?」
「えぇと、ライブ終了後自転車で公園通りに移動して、待機してるバイクに拾ってもらう、んですね」
「そうだ。ファンが追いすがってくる可能性があるが、逃走経路は地図に示したとおりだ。一応、経路周りには人を配置してあるので、とにかく急いで駆け抜けることだけを考えてくれ」
ジーンズ履きの理由はそれだったのかと納得する。
「あのぅ〜、プロデューサーさん…」
「なんでしょう、あずささん」
「私、自転車乗れないんですぅ…」
「だと思いましたよ。心配無用です。俺が二人乗りで連れて行きます」
「よ、よかった〜、どうしようかと思いました…」
その後、音あわせと2回ほどのリハを行い、奥についたてを立てて上着を着替えた。ステージ衣装はジーンズにTシャツというラフな格好で、今までにあまり着たことのない感じの衣装である。めいめいで思い思いのアレンジを施し、結構それらしい衣装になった。
そして、全員が着替えたことを確認し、山本が発車の指示を出す。
移動中、車中はしーんと静まりかえっていた。ライブ前の緊張も手伝って、誰も一言も発しない。
そのような状況にいると、強がりで封じた不安が頭をもたげてくる。伊織は内心、不安でたまらなかったのだ。
下手すると、アイドルどころか765プロすら辞めなければならないかもしれないという状況を伊織は理解していた。
きっとプロデューサーは、社長に自分を辞めさせろと言われている。そうでなければ、こんなむちゃなライブをしなきゃいけない理由なんかない。
考えまいと思っても、そのことが頭に浮かんでくる。
座っていると足が勝手にふるえ出す。指が白くなるほど強く握って、肘で足を押さえ何とかやり過ごそうとするが、全く効果はない。
こめかみからすっと、冷や汗が流れ落ちた。
思わず、握った手に顔を伏せると、後ろからそっと肩を抱く手があった。
『あずさ…』
顔を上げなくてもわかる。
あずさの手も軽く震えていて、それを感じていると不思議と落ち着いてきた。
目を開けると、真が目の前にいる。すっと手を伸ばして、手を繋ぐ。
そのときには、すでに伊織の震えは止まっていた。
そして、後5分で到着というアナウンスがあり、全員が持ち場に着く。
手順の最終確認が行われた。
最後に、山本がパンと手を叩く。
「さあ、行ってこい!」
山本が袖にはいると、トラックの側面が開き始めた。
よくわからない道を抜けて10分ほど過ぎた頃、大きめの箱形トラックが一台だけ駐車してある駐車場に着いた。
単なる貨物トラックのような外観で、飾りっ気は全くないが、側面にはゴシックの文字で「765 Production」とだけ書いてある。
後部のドアを開けると、中にはすでにバックバンドの面々が乗り込んでいた。
挨拶をして、席に座るとプロデューサーが説明を始めた。
「このトラックで、渋谷109の前まで移動し、側面を開けて一曲分だけゲリラライブを行う」
「一曲だけ?」
「そうだ。一曲歌い切れれば十分だ。歌いきれるかどうかもわからん」
「それって、ひょっとして、警察の許可は取ってない…とか?」
真がおずおずと問う。
「一応知り合いを通じて、連絡はしてあるけれど…ま、皆まで言わせるなということだな。ひょっとしたら、任意の事情聴取くらいは受ける可能性がある。なので、正直無理に…とは言えないが…」
3人は顔を見合わせ、視線を交わした後、山本に向き直って全員がやると答えた。
「ありがとう、みんな。すまん。こんな無理な形のファーストライブになってしまったことは、俺の責任だ。申し訳ないと…」
言いかけたことばを伊織が遮る。
「そんなゴタクはどうでもいいのよ。私たちはライブを成功させに来てるの。
アンタに謝ってもらうのは、失敗したときだけでいいし、そしてそんなことは起きないから、謝ってもらう必要なんてないわ」
「…そうだな。じゃあ、ライブ前後の手はずを説明する」
山本は手際よく、ライブ前の準備、ライブが始まったときの段取り、終了後の逃走経路などの説明をする。
「…以上だ。わかったか?」
「えぇと、ライブ終了後自転車で公園通りに移動して、待機してるバイクに拾ってもらう、んですね」
「そうだ。ファンが追いすがってくる可能性があるが、逃走経路は地図に示したとおりだ。一応、経路周りには人を配置してあるので、とにかく急いで駆け抜けることだけを考えてくれ」
ジーンズ履きの理由はそれだったのかと納得する。
「あのぅ〜、プロデューサーさん…」
「なんでしょう、あずささん」
「私、自転車乗れないんですぅ…」
「だと思いましたよ。心配無用です。俺が二人乗りで連れて行きます」
「よ、よかった〜、どうしようかと思いました…」
その後、音あわせと2回ほどのリハを行い、奥についたてを立てて上着を着替えた。ステージ衣装はジーンズにTシャツというラフな格好で、今までにあまり着たことのない感じの衣装である。めいめいで思い思いのアレンジを施し、結構それらしい衣装になった。
そして、全員が着替えたことを確認し、山本が発車の指示を出す。
移動中、車中はしーんと静まりかえっていた。ライブ前の緊張も手伝って、誰も一言も発しない。
そのような状況にいると、強がりで封じた不安が頭をもたげてくる。伊織は内心、不安でたまらなかったのだ。
下手すると、アイドルどころか765プロすら辞めなければならないかもしれないという状況を伊織は理解していた。
きっとプロデューサーは、社長に自分を辞めさせろと言われている。そうでなければ、こんなむちゃなライブをしなきゃいけない理由なんかない。
考えまいと思っても、そのことが頭に浮かんでくる。
座っていると足が勝手にふるえ出す。指が白くなるほど強く握って、肘で足を押さえ何とかやり過ごそうとするが、全く効果はない。
こめかみからすっと、冷や汗が流れ落ちた。
思わず、握った手に顔を伏せると、後ろからそっと肩を抱く手があった。
『あずさ…』
顔を上げなくてもわかる。
あずさの手も軽く震えていて、それを感じていると不思議と落ち着いてきた。
目を開けると、真が目の前にいる。すっと手を伸ばして、手を繋ぐ。
そのときには、すでに伊織の震えは止まっていた。
そして、後5分で到着というアナウンスがあり、全員が持ち場に着く。
手順の最終確認が行われた。
最後に、山本がパンと手を叩く。
「さあ、行ってこい!」
山本が袖にはいると、トラックの側面が開き始めた。
| Copyright 2006,03,28, Tuesday 03:09am 瀧義郎 | comments (0) | trackback (0) |
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