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ファースト・ライブ(1)

次の日、伊織はメールで呼び出された。
ろくな説明もなく、とにかくきてくれとだけある。

事務所に着いたら真が先にいた。

「…真もよばれたの?」
「全員呼ばれたみたいだよ。メールで聞いたら、あずささんもよばれたって」
「なんで呼ばれたのか知ってる?」
「いや、しらないよ。けど、方針が決まったんじゃないかな」
「ああ…」

そういえば、来週頭には新曲が届くと山本が言っていたことを思い出す。

「そういえば、新曲届く頃よね。そのことかしら」
「そうかもしれないね。どんな曲だろう」

あずさも揃ってしばらくすると、山本が入ってきた。

「お、揃ってるな。じゃあちょっとしたミーティングをするんで会議室に行ってもらえるかい?」
「別にここでも良いんじゃないの?」
「いや。ここじゃダメだ。会議室に行ってくれ」

不審に思いつつ、会議室に集まると山本は3人に声を抑えていった。

「新曲が届いた。この新曲で、三日後に渋谷ゲリラライブを行う」
「み、三日後!?」

3人が揃って叫ぶ。
あわてて山本が口に手を当てて声を落とせと言うが、3人は口々に不安を叫ぶ。

「とりあえず落ち着けッ!」

山本が叫んで、やっとその場が静まりかえる。

「…このプロデュース計画が最善と判断したんだ。色々不満はあるだろうが、これで頼む」

山本は声を抑えていった。3人は顔を見合わせる。

「…状況って、そんなに切迫してるの?」

伊織が聞く。
しばらく山本は口を閉ざしていたが、意を決したように、この決断に至った経緯を説明した。

「なんですってぇ!!アンタまで私がコネアイドルだなんて言うつもりッ!?」

伊織が顔を紅潮させてプロデューサーのネクタイを締め上げる。

「ぐぐ…ちが…」

残りのふたりがあわてて止めにはいる。山本は咳き込んで、伊織に話す。

「違うって。社長も俺も、そんなことはわかってるよ。けど周りが…世間がそう見ているって事だ。
だから、このゲリラライブでお前はきっちり汚名を返上するんだ!」
「け、けど…いくらなんでもそんな急ごしらえなプランで…」
「やむを得ない。三日もあれば…社長は間違いなく手を打つ」
「え?」
「いや、なんでもない。ともかく、やるしかないんだ」

山本はきっぱりと言い切る。

「でもそんな、適当なプランでホントに成功するのぉ?」
「成功する?」

山本は鼻で笑う。

「成功させるんだよ。伊織。それとも、伊織はこれしきのことも成功させられないのか?
なら、コネアイドルといわれてもしょうがないなぁ」
「なんですってえ!!」

また伊織が山本につかみかかったが、しばらくにらみ合ったかとおもうと、伊織は投げ捨てるように手を放した。

「アンタ、その言葉忘れるんじゃないわよ!!」

ネクタイを直しながら、山本がうなずく。

「他の二人はどうだ?」
「あ、あの…」

真が視線をさまよわせるが、ふっと前を向いたときには目に力が宿っていた。

「やります。」
「うん!それでこそ真だ!」

山本は満足そうに目を細めた。

「あずささんはどうです?」
「もとより異存はありません〜」

山本は満足そうにうなずいて、ぱんっと小気味の良い音を立てて手を叩いた。
「さあ、レッスン開始だ。当日は最高のステージを見せてくれ!」

その場がぴっと引き締まった。
そこで、あずさが、片手を上げて嬉しそうに叫ぶ。

「よ〜し。いっきまっしょぉ〜」

一気にその場の緊張感と全員の膝の力が抜けた。


| Copyright 2006,03,21, Tuesday 04:45am 瀧義郎 | comments (0) | trackback (0) |

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