THE iDOLM@STER ショートストーリー
ムリメ その6
オーディション参加者がずらりと並ぶ中、一段高い位置に審査員達が立っている。
おそらく審査結果が書かれているであろう、B5くらいの紙を手元に持った審査員長の歌田音が一歩前に進み出て、
「では、今回の審査結果を発表します」
と言った。
伊織もやよいもうつむいていた。
覚悟していることとはいえ、落選をハッキリ告げられるのはやはり心に突き刺さる。
ふたりとも覚悟を決めて、ぐっと目を閉じていた。
「合格は総合12ポイントでエントリーナンバー1番、A.A.Oさん、そして今一組は総合10ポイントでエントリーナンバー3番、理科さんです。理科さんと佐野美心さんは総合ポイントで同点でしたが、今回はよりフレッシュな理科さんに出ていただくことにしました」
え?
あちこちで悲鳴が上がる中、伊織とやよいはぽかんと目を開けた。
目を開けても、周りの混乱が目にはいるばかりで、さっき聞こえた審査員長の言葉が幻聴かそうでないかの区別が付かない。
結局一番信頼できる、すぐ横にいるパートナーにお互いの目を合わせて、
「え、あの?」
「合格?」
と、つぶやきあった。
「それでは、講評に移ります」
混乱を制するように、審査員長がぴしりと言った。ざわめきは瞬時に収まり、全員の目が壇上に向けられた。
「今回の審査は非常に難航しました。と、いうのも、参加者の皆さんは、ボーカルに関しては非常に僅差で、ほとんど差異はなかったからです。そこで、今回の審査では急遽特別に、ダンスとビジュアルのみの審査とさせていただくこととなりました」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
参加者側から異議の声が上がった。佐野美心だった。
「そんなことがあるなんて、聞いていません!」
「いえ。きちんと、オーディション前に説明したはずです。『審査の形式を変えることがある』、と」
「あ……」
黙ってしまった美心に構うことなく、審査員長は全員に視線を戻した。
「今回のオーディションは先だって述べたとおり、非常にレベルの高いものになり、私たちも満足しています。今回落選した方も、次回以降のオーディションに参加してもらえることを期待します。では、合格した方以外の参加者は帰ってくださってけっこうです」
不合格のアイドルたちが肩を落として、その場を去っていく中、佐野美心は、怒りに全身を震わせて、やよいと伊織をにらみつけていた。
「こんな……こんな審査員の気まぐれで決まった勝ち負けなんて、認めない!」
「……」
伊織もやよいも、まだ事態を把握していなかった。合格したということどころか、勝った、負けたという意識すらなかった。
突然降ってわいた事実にただ困惑し、返す言葉を失って、立ちつくす。
怒りに顔をゆがめた美心の顔が、こんどはひどく弱々しく見えた。
美心のつり上がった目が次第に細まっていく。すると、ぽろりと大粒の涙がこぼれた。
「認めない……ん、だから……っ!」
美心の声に嗚咽が混じる。
伊織とやよいがただ困惑していると、長髪を金髪に染めた男性が小走りに駆けてきた。美心のプロデューサーらしい。
彼は彼女の肩を抱くと、
「ごめんね、気にしないで」
と、伊織とやよいに苦笑がちに言って、美心を連れて出て行った。
それを見送っていると、後ろからぽんと肩を叩く手があった。プロデューサーだ。
「やったな」
「……うん。でも……なんだか……」
「ん?」
「これって、フロックで受かっただけ、よね。実力って気がしないわ」
複雑な顔をして、伊織は言った。やよいは、ん?と言う顔をして、首をかしげる。
「フロックでも運でも奇跡でも、結果は受け止めるべきだろ?」
「実力は関係ないってこと?」
「そうじゃないが。まあ、運も実力のうちってやつかな」
プロデューサーは軽く笑う。
「でも。そんな不確かなもの、実力って言える?」
「わかんないか?お前達はちゃんとダンスとビジュアルでポイントがあったじゃないか」
「?」
「それがなければ、引き寄せる運もなかったってことだよ」
「わかるような、わからないような〜……うーん。」
「まあ、いずれわかるよ。そういうわけで、今日の殊勲賞はやよいだな」
さっきまで難しい顔をして腕組みをしながら考えごとをしていたやよいは、突然ふられて、かるく慌てた。
「え!?あ、わ、わたしですかっ!?」
「今日オーディションで勝ったのはやよいのおかげみたいなもんだ」
微笑んでプロデューサーが言うと、やよいは?顔を満面に浮かべたままで言った。
「え……え、あの、フロッグだからですか?」
「は?フロッグ?」
「わたしのべろちょろのおかげで勝てた、ってことですか??」
「……べろちょろ?ってなに?」
プロデューサーが真顔で問うと、伊織が吹き出した。
伊織は腹を抱えて笑っている。
「あははははは!やよい、アンタばっかねえ、フロックってまぐれのことよ、ま、ぐ、れ」
「え、あ、そ、そうだったんですかっ!?」
やよいは頭を抱える。その横で、伊織はずっと大笑いしていた。
一人残されたプロデューサーは、ずっと
「なあ。べろちょろって何なんだ?」
と言っていた。(fin)
おそらく審査結果が書かれているであろう、B5くらいの紙を手元に持った審査員長の歌田音が一歩前に進み出て、
「では、今回の審査結果を発表します」
と言った。
伊織もやよいもうつむいていた。
覚悟していることとはいえ、落選をハッキリ告げられるのはやはり心に突き刺さる。
ふたりとも覚悟を決めて、ぐっと目を閉じていた。
「合格は総合12ポイントでエントリーナンバー1番、A.A.Oさん、そして今一組は総合10ポイントでエントリーナンバー3番、理科さんです。理科さんと佐野美心さんは総合ポイントで同点でしたが、今回はよりフレッシュな理科さんに出ていただくことにしました」
え?
あちこちで悲鳴が上がる中、伊織とやよいはぽかんと目を開けた。
目を開けても、周りの混乱が目にはいるばかりで、さっき聞こえた審査員長の言葉が幻聴かそうでないかの区別が付かない。
結局一番信頼できる、すぐ横にいるパートナーにお互いの目を合わせて、
「え、あの?」
「合格?」
と、つぶやきあった。
「それでは、講評に移ります」
混乱を制するように、審査員長がぴしりと言った。ざわめきは瞬時に収まり、全員の目が壇上に向けられた。
「今回の審査は非常に難航しました。と、いうのも、参加者の皆さんは、ボーカルに関しては非常に僅差で、ほとんど差異はなかったからです。そこで、今回の審査では急遽特別に、ダンスとビジュアルのみの審査とさせていただくこととなりました」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
参加者側から異議の声が上がった。佐野美心だった。
「そんなことがあるなんて、聞いていません!」
「いえ。きちんと、オーディション前に説明したはずです。『審査の形式を変えることがある』、と」
「あ……」
黙ってしまった美心に構うことなく、審査員長は全員に視線を戻した。
「今回のオーディションは先だって述べたとおり、非常にレベルの高いものになり、私たちも満足しています。今回落選した方も、次回以降のオーディションに参加してもらえることを期待します。では、合格した方以外の参加者は帰ってくださってけっこうです」
不合格のアイドルたちが肩を落として、その場を去っていく中、佐野美心は、怒りに全身を震わせて、やよいと伊織をにらみつけていた。
「こんな……こんな審査員の気まぐれで決まった勝ち負けなんて、認めない!」
「……」
伊織もやよいも、まだ事態を把握していなかった。合格したということどころか、勝った、負けたという意識すらなかった。
突然降ってわいた事実にただ困惑し、返す言葉を失って、立ちつくす。
怒りに顔をゆがめた美心の顔が、こんどはひどく弱々しく見えた。
美心のつり上がった目が次第に細まっていく。すると、ぽろりと大粒の涙がこぼれた。
「認めない……ん、だから……っ!」
美心の声に嗚咽が混じる。
伊織とやよいがただ困惑していると、長髪を金髪に染めた男性が小走りに駆けてきた。美心のプロデューサーらしい。
彼は彼女の肩を抱くと、
「ごめんね、気にしないで」
と、伊織とやよいに苦笑がちに言って、美心を連れて出て行った。
それを見送っていると、後ろからぽんと肩を叩く手があった。プロデューサーだ。
「やったな」
「……うん。でも……なんだか……」
「ん?」
「これって、フロックで受かっただけ、よね。実力って気がしないわ」
複雑な顔をして、伊織は言った。やよいは、ん?と言う顔をして、首をかしげる。
「フロックでも運でも奇跡でも、結果は受け止めるべきだろ?」
「実力は関係ないってこと?」
「そうじゃないが。まあ、運も実力のうちってやつかな」
プロデューサーは軽く笑う。
「でも。そんな不確かなもの、実力って言える?」
「わかんないか?お前達はちゃんとダンスとビジュアルでポイントがあったじゃないか」
「?」
「それがなければ、引き寄せる運もなかったってことだよ」
「わかるような、わからないような〜……うーん。」
「まあ、いずれわかるよ。そういうわけで、今日の殊勲賞はやよいだな」
さっきまで難しい顔をして腕組みをしながら考えごとをしていたやよいは、突然ふられて、かるく慌てた。
「え!?あ、わ、わたしですかっ!?」
「今日オーディションで勝ったのはやよいのおかげみたいなもんだ」
微笑んでプロデューサーが言うと、やよいは?顔を満面に浮かべたままで言った。
「え……え、あの、フロッグだからですか?」
「は?フロッグ?」
「わたしのべろちょろのおかげで勝てた、ってことですか??」
「……べろちょろ?ってなに?」
プロデューサーが真顔で問うと、伊織が吹き出した。
伊織は腹を抱えて笑っている。
「あははははは!やよい、アンタばっかねえ、フロックってまぐれのことよ、ま、ぐ、れ」
「え、あ、そ、そうだったんですかっ!?」
やよいは頭を抱える。その横で、伊織はずっと大笑いしていた。
一人残されたプロデューサーは、ずっと
「なあ。べろちょろって何なんだ?」
と言っていた。(fin)
| Copyright 2007,09,06, Thursday 02:43pm 瀧義郎 | comments (0) | trackback (0) |
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