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ムリメ その3 水瀬伊織の場合

「では、これよりオーディションを開始します。
審査は第1から第3までの三つの審査があります。審査に足切りはありません。全員、第3審査まで受けてください。
では、皆さんを代表して……そうですね」

伊織は、自分があたることを期待した。
『ここは、わたしたちでしょ?何せフレッシュな新人だしっ!』
じっと審査員長の歌田音を見つめる。無言で必死のアピールをしたが、しかし。

「4番の佐野美心さん」

残念ながら、自分にはあたらなかった。多少なりとも、伊織はガッカリした。
ここでアピールさせてくれたら、審査員の心をバッチリつかむ自信があったのに。

「はい」
「意気込みなどがありましたら、どうぞ」
「審査員の皆さんのご期待に添えるよう、しっかりとした実力をアピールしたいと思います」
「大変よいお答えですね。本番では、期待しています」
「ありがとうございます」

あーもう。人のアピールなんてどうでもいいわよ。とっとと審査に移って欲しいわ。
興味なさげにその光景を見ていた伊織だったが、しかし。
美心が伊織の横を通り過ぎる時につぶやいた言葉は、聞き捨てならなかった。

「……素人が一組いるから、今日のオーディションは楽だしね」
「!」

思わず、伊織は美心を凝視する。
美心は自分の席に座り、伊織たちをちらちらとみながら、隣のオーディション参加者とこそこそと話をしていた。

『なによ、あれ……!』

伊織の奥歯がぎりっと勁い音を立てる。
その音に気がついたやよいが、不思議そうな顔をして伊織に問いかけた。

「どうしたの?伊織ちゃん」
「……後で話すわ」

あんな連中に絶対負けるもんですか。ぎゃふんと言わせてやるわ。
A.A.Oの底力をなめんじゃないわよ!
伊織は闘志を燃やし、第一審査に望んだ。

しかし。

第1審査が終わったとき、伊織はその覚悟が完全に空回りしていたことを認めざるをえなかった。

「なに……これ!」

審査員から手渡された中間発表は、ハッキリと伊織たちの未熟を表していたのである。
ビジュアル面でわずかに評価されたものの、ボーカルやダンスでは全く評価されていなかった。もちろん、順位も下から数えた方が早い。
これが、もし、足切りのあるオーディションであれば、間違いなく足切りの対象になっていたに違いない。

「い、伊織ちゃん」

やよいが不安そうな顔をして、伊織にすがりついてくる。
同時に、プロデューサーがあわてて、二人に走り寄ってきた。

「ど、どうしたんだ。この順位」
「どーしたもこーしたも……ちゃんと、アンタの指示通りやったんだけど」
「しかし……審査の様子は中継テレビで見ていたが、決して他のアイドルに劣ってたとは……」
「でも、審査員はそう思わなかったってことでしょ」
「……うーむ……」
「で?第2審査ではどうするわけ?」
「ボーカルの力とダンスの力をしっかりとアピールしてくるしかないだろう。このままでは、トップどころか合格すらおぼつかない」
「ほんとうに、それで大丈夫?」
「そのはずだ。今回は歌田さんが審査員長をしているんだから、ボーカルの評価が低いと致命傷になる。次回ではきっちりとボーカル評価を取ってくるんだ」
「わかった」

伊織はプロデューサーに頷いて、審査会場に向かった。

審査では、伊織とやよいはもてる限りの力を投入し、ダンスとボーカルのアピールにすべてを注ぎ込んだ。もう、これ以上を望まれても、絶対に不可能だ、と思えるくらいの力を出し切り、これまで経験したどんなオーディションよりもいいできだと思えた。

「第2審査を終了します。中間発表まで、控え室でしばしお待ちください」

やりきった、という爽やかな感触が二人を包む。
やよいと目があった伊織は、ウィンクをしてハイタッチをした。

「やったわね、やよい」
「うっうー!わたしもこれまでで一番、うまくできたと思いますっ!」

ちらりと美心を見ると、不敵な笑みを浮かべてこちらを見ていた。

『ふふん。そうやって笑っていられるのも、今のうちなんだから!』

心の中でつぶやいて、余裕の笑みで美心を見返す。
それくらい、絶対の自信がある。こんどは、絶対に満点を取れたはずだ。

「それでは、第二次審査の結果を発表します。名前を呼ばれた方は取りに来てください。エントリーナンバー1番、A.A.Oさん」
「やよい、行くわよ!」

伊織は、「ふふん、ありがと」と言って余裕を持って審査結果を受け取った。

「ま、結果は見るまでもないけどね♪」
「そうですねっ!」

審査結果を開いた瞬間、しかし。二人からその余裕が吹き飛んだ。
審査結果にはハッキリと、ボーカルが全く評価されなかったことが書かれていた。

伊織は、美心の高笑いを聞いたような気がした。



| Copyright 2007,08,30, Thursday 09:14pm 瀧義郎 | comments (0) | trackback (0) |

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