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ムリメ その4 高槻やよいの場合

伊織は真っ青になった。
これでは、どうやっても逆転のしようがない。
なにせ、たった二人の枠のところで現在5位。最終審査で逆転できる可能性は、どう考えても、ない。

それこそ、奇跡でも起きない限り。

「こ、これじゃ、どうやっても合格なんて無理じゃない……」

伊織は、審査結果を握りしめてわなわなと震えている。

「……」

やよいはじっと考え込む。
ホントにそうかな。ホントに、無理なのかな?

「……ホントに、全然、無理かなあ?」

やよいの中で、何かが切り替わった。
全くダメだって言われてるわけじゃない。ボーカルだって、全然ためじゃないとおもう。だって、ビリってわけじゃないしっ。

「はぁ?」

伊織は怪訝な顔でやよいの顔をまじまじとみる。
しかし、やよいはそれをまっすぐに見返して、真剣な目でまくし立てた。

「だって、ビジュアルは二回ともいいって言われてるんだしっ、今回はダンスもいいっていってもらえたんだしっ、全然ダメー、ってことじゃないと思うっ!」
「……その、ポジティブ思考はどっから出てくるわけ?」
「だって、あきらめたらそこで負けー、なんだよっ、伊織ちゃん!」
「でも、こんなの奇跡でも起きなきゃ……」
「起きるよ、奇跡っ!頑張ればきっと!」
「そんな甘いもんじゃ……」

やよいは伊織の瞳をまっすぐに見る。

もちろん、やよいも。これが容易ならざる事態であることは承知していた。
伊織の言うように、逆転なんてそうそう起きるものではないかもしれない。
でも、簡単に負けを受け入れる気はしなかった。

これまで、伊織と共にプロデューサーの厳しい指導を受けてきた。それはちゃんと、やよいと伊織の血肉になっているはずだ。見込みがないからってあきらめるのは、積み上げたものを否定する気がする。

ダメだったら、ダメだった時のことだ。
そのときは思いっきり泣いて、さっぱりすればいい。今は、全力を出すべき時だと思う。

「ともかく、やりきろうよ、伊織ちゃん!ハナシはソレカラだよっ!」

うまく言葉にできないけど、伊織ちゃんにはきっと伝わる。私の気持ち。
やよいは伊織をじっと見つめる。伊織は目を丸くして、やよいを見ていた。

やがて、伊織はやよいから視線を外し、やよいの背後をにらみつける。

「プロデューサー!ちょっと!」
「えっ?」

振り向くと、いつの間にか、プロデューサーがやよいの後ろに立っていた。

「なんだ?」
「第3審査はどうすればいいの?」
「……そうだな。やよいの言うとおり、全力を出し切るのが正解だろう。
満点を取れば、万が一、ということはありうる」
「まんがいちぃ?なにふざけたこといってんのよ!この奇跡のスーパーアイドル水瀬伊織ちゃんがそんな勝率低いわけないでしょ!」

伊織がそういうと、プロデューサーはにやりと笑った。

「そうだな、その通りだ。お前たちには勝利の女神がついてたんだったな」
「いくわよ、やよい!勝ちをもぎ取りに!」
「うんっ!」

やよいは、満面の笑みで伊織に返事をした。
それでこそ、伊織ちゃんだと思う。負けないと思えば、きっと負けない!



| Copyright 2007,09,01, Saturday 06:36am 瀧義郎 | comments (0) | trackback (0) |

 

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