「えーと、あと十人くらいか……」
夏樹はエントリーシートを投げ出して、伸びをする。
やっと終わりがみえてきた。

「で、夏樹君、どうかね」
「どうかねも何も……。これ、誰が書類選考したんですか」
思わずため息を吐く。今までの所、ほとんどが話にならない。
ほとんどの受験者は「アイドル」というところに目を奪われて、「歌手」というところには目が行かなかったらしい。のうのうと「女優志望です」とのたまった娘すらいた。

そんなの、なんで書類審査でなんで落とせなかったんだ、と思う。

765プロはあくまで「アイドル歌手」の事務所だ。
グラビア撮影やドラマ出演などがないわけではないが、あくまで歌手プロデュースの一環であって、他の活動の比重はかなり軽い。
女優志望なら、別のプロダクションに行くべきだろう。

「アイドル〝歌手〟のオーディションって、ちゃんと募集要項に書いたんですか?」
「いや、まあ、そのアレだ……うん。書いたはずだと思うよ?」
「もう……」
夏樹は机に突っ伏した。
連日の激務が響いている上に、これはキツい。
『やっぱり、なんとしても断るべきだった……』
しかし……断ったら、アルバム制作の予算が……。
なんとか、萎えそうな気力を奮い立たせて起き上がる。
これも、あずさ、千早、真のためだ。

「うーむ……では、今のところ、有望な娘はいないと?」
社長はパラパラと書類を眺めている。
「うーん……まあ……」
夏樹は面接済みの娘のエントリーシートを手に取って、付箋の貼ってあるものを取り出した。
「これまででいうなら、この星井美希って娘はいいと思いますよ」
ルックスも抜群だし、ちょっと甘えるような感じの声質もいい。
面接でどうどうとあくびをやってのける度胸も、ある意味すごい。
個性と将来性ではずば抜けているといえる。
「そ、そうかね? いや、照れるじゃないか、夏樹君」
社長は嬉しそうに頭をかいた。
「はぁ……? なんで社長が照れるんですか」
「あ、いや。実は、彼女は私がスカウトしてきたんだよ」
「へー。社長、いい目してますね。その目があれば大丈夫ですよ。じゃ、わたしはこれで……」
「いやいや。さ、次の娘を呼ぼう!」
「……もう、私いなくてもいいじゃないですか……。
 もう午後に食い込んでるんですよ。予定が……」
「いやいや。君の代役はきちんと手配しただろう?
 逸材はこの後に隠れてるんだよ、夏樹君!」
「もー……」
こんなときは手回しがいいんだから、と言う言葉を飲み込んで、もう一度伸びをした。

次の娘のエントリーシートを取り出して、机の上に置く。
『はぎわら……ゆきほ、か……』

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